事業承継税制の流れについて

 事業承継税制(贈与税のケース)とは、後継者が先代経営者から贈与税を支払わずに株式を引継ぐことができ、条件を満たし続ける限りその納税が猶予され、さらに次の後継者に事業を承継させることができた場合には、その納税が全額免除されるという制度です(次の後継者に納税猶予が引き継がれる形となります)。
  以前にこの事業承継税制の内容やメリット・デメリットについて紹介した記事がありますので、こちらも是非ご覧ください。
 →事業承継税制のメリット・デメリット

 さて、今回は事業承継税制を利用することが決まったとして、具体的にどのような流れで事業承継税制の手続きを進めていくことになるのか、簡単にご紹介したいと思います。
<前提>
・株式会社X(総株式数100株・4月決算法人)
 ・先代経営者Aから75株、先代経営者の妻Bから25株をそれぞれ後継者Cが贈与により譲り受ける(計100株(100%))。
 ・株式会社Xは100%子会社である株式会社Yの株式を保有している。
・納税猶予割合が100%である特例措置を利用する。

1. 具体的なスケジュール
2. 各手続きについて
(1)特例承継計画の作成・提出
 令和6年3月31日までに特例承継計画を作成し、都道府県知事に提出する必要があります。
特例承継計画書式
 
これまでの経営上の課題や後継者が株式等を承継した後5年間の経営計画などを記載し、税理士等の認定経営革新等支援機関による指導・助言をもらった上で都道府県に提出し、確認書の交付を受ける形となります。これを提出しておくことで、100%の納税猶予が可能な特例制度を受けることができますので、権利確保のためにひとまずこれだけ提出しておくというのもアリでしょう。
(2)自社株評価
 一般的な流れとしては、特例承継計画の提出後、後継者が各贈与者から株式の贈与を受け、その後各都道府県に「贈与税の認定申請書類」を提出することとなります。そして、その認定申請書類を提出するに当たっては贈与税額の見込み額を記載する必要があるため、事前に自社株の評価が必要となってきます。
(3)贈与税の認定申請書類の作成・提出
 申請期間は贈与をした年の10月15日から翌年1月15日までとなります。先代経営者から後継者への贈与については、第一種特例贈与認定申請書を提出することとなり、先代経営者以外の株主から後継者への贈与については、第二種特例贈与認定申請書を提出することとなります。認定申請書を提出する際には、(1)の特例承継計画又はその確認書を添付する必要があり、審査を経て認定書が交付されます。作成する書類が多く、自社株評価を含めて手間と時間がかかるため、計画的に提出の準備を進めていく必要があります。なお、先代経営者以外の株主から受ける贈与に係る第二種特例贈与認定申請書については、第一種のものとほぼ同じ書類となるためそこまで手間はかからないものとなります。また、このケースにあるように子会社がある場合で一定の要件に当てはまるときは、その子会社に関する書類(特別子会社についての誓約書等)も提出する必要があるため、注意が必要となります。
(4)贈与税申告及び担保提供手続き
 (3)の都道府県からの認定が下りましたら、事業承継税制に係る入口の手続きはあともう一歩となります。株式の贈与を受けた後継者は、贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与税の申告を行います。そして忘れてはならないのが、税務署への「担保提供手続き」となります。これを失念してしまうと、これまでの手続きが全て水の泡となってしまい、納税猶予されるはずの贈与税額を納付しなければならなくなります(担保提供手続きも贈与税の申告期限である、贈与を受けた年の翌年3月15日まで)。
 また、担保提供手続きに当たっては「株券発行会社」と「株券不発行会社」で手続きが大きく異なってきます。手続き的には「株券不発行会社」のほうが簡単ですので、事業承継税制の適用を受けることが決まった段階で、自社の形態がどちらに該当するのか確認し、事前に「株券不発行会社」に変更するのも一つの手となります。
*本特例制度の担保提供については、納税猶予分の贈与税額に相当する担保を提供する必要がありますが、贈与税の納税猶予の対象となる非上場株式等を担保として提供すれば問題ないこととされています。
担保提供に関する書類について
(5)年次報告(都道府県)・継続届出書(税務署)の提出
 贈与税の申告期限から5年間については、毎年、都道府県に年次報告書を提出しなければなりません。また、税務署には毎年継続届出書を提出する必要があります。6年目以降は、都道府県への年次報告書の提出は必要なくなりますが、税務署へは3年毎に継続届出書を提出しなければならないので、忘れてしまわないような仕組みを構築する必要があります。これらの提出が万が一、一日でも遅れてしまうと納税猶予されていた贈与税額と利子税を納付しなければならないため、十分に注意しましょう。

 以上、事業承継税制の流れについて簡単にご紹介しました。入口の手続きが終わっても、次の後継者に株式を承継するまでは引続き提出に関するスケジュールが必要となりプレッシャーはかかり続ける形となりますが、本来贈与により納付しなければならない贈与税額が猶予され、メリットも大変大きいものとなります。是非、前向きに検討されてみてはいかがでしょうか。
 

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